読書狂時代

ブックレビュアー・はるうがお送りする書評、読書コラム、本に関するアレコレ。

ぜひとも「うっせぇわ」(Ado)を聴きながら【殺人七不思議】(ポール・アルテ)

 

 「わたしを愛しているなら人を殺してみせて。美しい連続殺人事件を」

謎の手紙を受け取った名探偵オーウェン・バーンズと相棒のアキレス。

世界の七不思議の添って繰り返される連続殺人は、果たして恋のさや当てが原因なのか?

恋のライバル同士がお互いを「殺人鬼」だと告発しあう異様な中でも、連続殺人は続いていく。

オーウェンは犯人を見つけらるのか?

犯人の本当の目的は何なのか??

オーウェン・バーンズシリーズ第3弾!

 

 

オーウェン・バーンズシリーズの長編で、日本で刊行されている最後の作品。

第1弾「あやかしの裏通り」第2弾「金時計」、そして第3弾がこの「殺人七不思議」なのだけれど、初めてオーウェンをマジでウザいと思った。

 

名探偵ってだれでもそうなのか?

 

謙虚さの欠片もなく、己の推理に向かって突き進み、「どいうこと?」と訊かれれば「そんなことも分からんのか!」とブチ切れる(あるいは相当にバカにしてくる)。

翻訳ものの名探偵ってそんな風な人が多い気がするのは気のせい?(シャーロック・ホームズが最たる人物だと思う……)。

 

「≪ミスター・※※※※A※≫は古代の寺院を描いたコインを握りしめ、背中を矢で射られた……。そう聞いて思いあたることは何もないのかい?」

 

ウザい。

 

「要するにぼくの感性が鋭すぎるんだな。そのせいでありもしないところに≪芸術≫を見出してしまうんだ。そもそもそれは耽美主義が陥りやすい危険性でね。あまりにも精妙な美意識がなせるわざなのさ。いわば詩人だけが知覚しうる、目に見えない第五エッセンスだ。(略)」

 

ウザい。

 

「どうしてきみはそうやって、なんでもかんでもおちょくるんだろうな。十人もの確かな証人がいるっていうのに、どうしてそれらの出来事をまともに取り合おうとしないんだ?この事件に得も言われぬ詩情がある。きみにはそれがわからないのか?(略)」

 

ウザい。

 

オーウェンの怒涛のウザさ大爆発だ。

 

この本を読むときは、ぜひとも「うっせぇわ」(Ado)をBGMにしてください。

そうすれば心穏やかに読めるかもしれません。

 

さて、肝心の事件については。

 

タイトルの「殺人七不思議」の「七不思議」とは古代の世界七不思議のこと。

一覧にしてみると、こんな具合。

 

・ギザの大ピラミッド

・バビロンの空中庭園

・エフェソスのアルテミス神殿

オリンピアのゼウス像

・ハルカルナッソスのマウロス霊廟

ロードス島の巨像

アレクサンドリアの大灯台

 

 

ちなみに、いわゆる「トイレの花子さん」のような心霊的な「学校の七不思議」ではなく、古典古代における7つの建造物が古典的な「世界の七不思議」らしい。

 

これらの建造物はギザの大ピラミッドを除き、すべてが地震や破壊(おそらく戦乱のせい)により残っておらず、「マウソロス霊廟」と「エフェソスのアルテミス神殿」がわずかに遺構(残っている古い建物)や遺跡が残っているだけとのこと。

 

これらの七不思議に沿って奇妙な連続殺人が起きるのである。

 

帯には

「連続・予告・不可能・見立て殺人」

書かれているのけれど、確かに内容はそのまま。

 

連続殺人であり、犯行予告があり、その内容はどれも不可能犯罪で、七不思議に沿った見立て殺人なのである。

 

日本で訳されているオーウェンシリーズの長編の中でもこれはいちばん突拍子もなく、犯人もオチも好みが分かれると思うのだ。

 

まず、犯人が犯行を重ねるために武器にしたものが犯人特有で限定的。

この武器がなければ、まず犯行は不可能(しかもこの武器、駆使しようとしなくてもその作用を発揮する厄介なもの)。

 

つまり、最強にして最上の武器を持って犯人はこの事件を起こしたのである。

 

これは、私のごくごく個人的な感じ方かもしれないけれど、犯人の動機がまったく理解できなかった。

 

犯人の「恋」と「愛」の結晶がこの連続殺人を引き起こした……と言っても過言ではないのだけれど、苦しい、苦しいよ、この動機……。

ただ「それ」だけのためにこれだけの大量殺人を引き起こすのは、ちょっと無理がある、かな。

 

このお国柄特有の恋愛模様なのだろうか……。

とは言っても、辻馬車が走っているイギリスが舞台なので、おそらく時代はヴィクトリア時代

ホームズが生きていた時代と同じと思われる(ヴィクトリア時代は1887年~1901

年。ホームズが書かれたのは1887年~1927年ので、おそらくオーウェンはホームズと同じ時代を生きている)。

ヴィクトリア時代の恋愛は、こんな風なのかな?というところにも着目して読むと面白いかもしれない。

 

好き嫌いはさておき、オカルト的な「世界の七不思議」に興味がある人、連続殺人ものがお好きな方、もちろん、ホームズが好きな人にもおすすめである。

 

 

はるう

 

 

 

 

「あなたの元にも」がダメなら無理【赫眼】(三津田信三)

 

 小学生とは思えない美貌と色香の転校生・目童たかりの恐るべき正体。

作家の夜中にかかってきた奇妙な電話の背筋の凍る顛末。

合わせ鏡の中を見すぎてしまった男のその後とは?

三津田信三初のホラー短編集。

あなたはこの恐怖に耐えることができるか……。

 

とりあえず、表紙が怖い。

上記のAmazonのリンクの画像を見てもらえば分かるけれど、この表紙を上に向けとくのを避けたいぐらい不気味な表紙。

この表紙の少女は表題作「赫眼」に登場する少女である。

読むのをためらわせるほどの力のあるイラストだ。

 

「赫眼」を含め12編の物語は収録されている。

メタフィクションの技法を取っており、虚構と現実の区別がつかなくなりそうでそこも怖い。

「刀城言耶」を書いているという記述があるからにして、ちょこちょことこの短編集で登場する作家は「三津田信三」本人であるということなのだろう。

怪異収集がご本人も趣味だということで、本の外の「三津田信三」が収集した怪異も4つ載っており、それこそ本当に「実話」なのか「物語」なのか混乱に拍車がかかる。

 

ある程度ホラーに耐性がないとこの本はおすすめできない。

特に「この本を読んだあなたのもとへと行かなければいいのだが」という、ある種古風なホラーのやり口が苦手な人は恐怖に慄くことだろう。

 

三津田信三さんと言えば「刀城言耶」シリーズでかなり有名だが、「刀城言耶」の方はホラーミステリという体を取っているが、この短編集は完全のどれもホラー。

なので、根っからホラーが苦手な人には確実におすすめはできない。

 

できないのだけれど、小説としてはかなり面白いので興味がある人は是非とも読んでほしい。

旧家の因縁とか好きな人いない?

人里離れた温泉の露天風呂に現れる謎の老人とか興味ある人いない?

 

ホラーを読み始めたばかりの私にはかなりの恐怖だった(と、言いつつ私は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」タイプなので、読んでもその瞬間だけしか怖がらない)。

けれど、その「怖がらせる技術」というものがすんばらしいので、「小説」という形だけを意識して読むことをおすすめしたい。

まあ、怖いことには変わりないんですけどね……!

 

「小説」という形に感動しつつ、背筋を凍らせて読みたい1冊である。

 

 

はるう

 

過去と現在を繋ぐのはやっぱり痴情のもつれ【金時計】(ポール・アルテ)

 

1911年。

雪に閉ざされた森の中で見つかった女性実業家の遺体。

彼女の周りには発見者と自身の足跡しかなく……。

果たして彼女は他殺なのか?奇妙な自殺なのか?

オーウェン・バーンズの推理は?

そして、1991年。

スランプ気味の劇作家アンドレは、幼いころに見た強烈の印象を残す映画を探すことに執念を燃やしていた。

妻セリアの協力のもと映画の正体を巡る、アンドレ精神分析家と天文学者の関係。

入り乱れる過去と現在の事件の行方は?

 

 

一応、オーウェン・バーンズシリーズとなっているが、こちらはオーウェンだけではなく、劇作家のアンドレと妻の視点も一緒に入ってくる。

「一緒に」と言ってしまったけれど、オーウェンと同じ時代の人間ではなく、なんとオーウェンの生きていた時代から80年後の時代に生きる劇作家とその妻の物語が入ってくるのだ。

 

オーウェンが挑む事件は、いわゆる「雪の中の足跡」の事件。

発見者と被害者自身の足跡しかなく、もちろん犯人の足跡はなし。

殺害に方法は撲殺だったので、転んだ拍子にそばの落ちていた石で頭を打った事故なのか?それともおかしな自殺だったのか?

しかし、他殺だったらどうやって被害者を雪原の中で殺害し、戻って行ったのか?

この謎にオーウェンが挑む。

 

一方、劇作家のアンドレは作品が書けずにスランプに悩んでいたのだが、その原因がどうも幼いころに見た強烈な印象を残す映画の正体を探ればいいのではないか?と思い、妻のセリアに相談する。

するとセリアが近所のクリスティーヌから精神分析家と天文学者を紹介されたと言われ、アンドレは2人の家に通うようになる。

何やらアンドレとセリアは共通の目的があるようで、その謎も並行して解かれていく。

 

オーウェンの方は純粋な本格ミステリで、劇作家アンドレの方は「狂気の復讐劇」の様相である。

 

だから、オーウェンの方の「雪中の足跡もの」は、なんというか、お飾り感がある。

というのも、劇作家アンドレのパートがだんだんと狂気度を増していき、オーウェンの事件がかすんでいく。

「幼いころに見た印象的な映画が何かを知りたい」という欲求が、何か別の目的へと動いていくのがだんだんと読者に分かってくる。

しかし、その目的そのものが何かはおぼろげな輪郭しか分からない。

結局アンドレはその映画を見つけることが目的なのか?

セリアはただ夫の「映画を探したい」という欲求に応えてあげているだけのか?

静かに足元に忍び寄ってくる「本当の目的」を読者が知ったときには、物語はすでに手遅れの域までいっているのだ。

 

さて、オーウェンの方はというと、こちらはなんというか「痴情のもつれと金」という感じである。

トリックは簡単そうに見えて実は割と複雑……というか、犯人は考えに考え抜いた末の結果こうぜざる負えなかったのだろうなという(雪の中という状況をうまく使っているのである)。

 

私自身の完全な主観になってしまうのだけれど、犯人判明後の結果が好きではない方の幕切れだった……。

これ完全に「痴情のもつれの果ての殺し」じゃん!(女性の方はもっと賢明だと思ったのに……)。

それを殺人事件にまで発展させた犯人にある意味脱帽……。

 

 

はるう

 

 

 

 

 

 

迷い込んだ先にあるのがこの真相!?【あやかしの裏通り】(ポール・アルテ)

 

 ロンドンのどこかにあり、奇妙な光景を目撃したあとに忽然と消えてしまうという「あやかしの裏通り」。

そこで奇妙な体験をしたという人物が、名探偵であり美術評論家オーウェン・バーンズのもとへと駆け込んできた。

彼・ラルフはオーウェンの大学時代の友人で、今は外交官をしており、たまたま仕事でロンドンに滞在しているところ「あやかしの裏通り」に入ってしまったという。

彼の依頼でその裏通りについて調査を始めるが、やがてそれは殺人事件へと発展していき……!?

ポール・アルテ、新シリーズ開幕!

 

フランス人で、フランスでは有名な小説家とのことらしいが、なんとこの本の舞台はイギリス、ロンドン。

まず「フランスやないんかーい!」と突っ込みたくなる(ほかの著書はフランスが舞台かもしれないけれど)。

 

ときは、1901年のイギリス・ロンドン

1901年のイギリスはヴィクトリア時代なので、そう、つまりシャーロック・ホームズが活躍していた時代と同じ。

鉄道も移動手段として登場しているけれど、市民はまだ辻馬車などが交通機関の主だった時代ですね。

雰囲気はまさに「霧のロンドン」という感じで、好きな人にはたまらない情景が広がっている。

御多分に漏れず、私もヴィクトリア時代が大好きです。

 

その時代に生きるアマチュア探偵で美術評論家オーウェン・バーンズがこの本の探偵役。

ワトソン役は友人で語り手のアキレス・ストック。

彼らが語らっていると、オーウェンの大学時代の友人でアメリカ人外交官のラルフ・ティアニーが駆け込んでくる。

なんでも逃亡中の極悪人に間違えられた挙句、おかしな裏通りへと迷い込んだというのだ。

ということから、この物語は動き出すのである。

 

トリックとしての裏通りは至極簡単な仕掛け(分かってしまえばだけど)。
図もあるし、オーウェンの説明と照らし合わせて読めば、そんな難しいことはない。

犯人が分かったときのカタルシスもすごく爽快で、ポール・アルテすごい作家だ!と(上から目線ながら)感心してしまう。

 

ここまで犯人が手の込んだ仕掛けを施し、計画した理由が切実であり、心が苦しくなる動機なのである。

しかし、その切実な犯人の「思い」さえ裏切ってしまう本当の真相はある意味「胸クソ」ものかもしれない。

裏テーマはきっと「親子」だ。

 

物語の運びといい、探偵役といい、ワトソン役といい、シャーロック・ホームズを思わせる。

そう、これ、シャーロック・ホームズそっくりだ!と思った瞬間が、探偵役オーウェンの図々しさにあるのだ。

本の中の探偵なんて人の過去を掘り返してなんぼの商売だと思うけれど、まさにオーウェンシャーロック・ホームズの如く人の過去をネチネチ、ネチネチと掘り返して、家に押し掛けるし、部屋を見せろと言ってくるし。

この時代の探偵を書くとこうも無神経で、図々しくて、心臓に毛が生えている描写になってしまうのか!?

故に、シャーロック・ホームズがお好きなあなたにこの本はぴったりである(つまり私か)。

 

探偵役の図々しさと、ワトソン役のいつも通りのちょっと損な役回り。

この絶妙さが好きだから、このシリーズを追いかけようと思う。

 

 

はるう