読書狂時代

ブックレビュアー・はるうがお送りする書評、読書コラム、本に関するアレコレ。

酔いしれよこの世界に【幻想と怪奇1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英国奇想博覧会】

 

「幻想と怪奇」(1973~1974年)が45年の時を経て復活する!

海外幻想文学を紹介する幻想文学の専門誌の第1号のテーマは「ヴィクトリアン・ワンダーランド 英国奇想博覧会」。

英国・ヴィクトリア時代の自由な発想が生んだ奇想をお楽しみあれ!

 

 

45年前にこんなおもしろくて、発想豊かな文芸誌があったなんて!

1年間だけの発刊とはいえ、当時読んでいた人が心底うらやましい……。

しかし、復刊した今、再びそれが堪能できるのだ。

 

第1弾は「ヴィクトリアン・ワンダーランド」!

ヴィクトリア時代とはヴィクトリア女王が統治していた時代のこと。

栄華を誇ったその時代には、小説ではシャーロック・ホームズが生まれ、現実ではジャック・ザ・リッパーが殺人事件を起こしていた。

そしてこの2人のことを私たちはよく知っている。

 

文明が花開いた時代だったせいか、発想がとにかく自由!

「幻想と怪奇」なので、幻想めいていて怪奇な作品が多いのだが、それはある意味ミステリでもあり、どこかSFの匂いもする。

 

私が特に気に入ったのは「レ・ファニュの幻妖な世界」。

いや、もう、ホントに、うっとりするほどの恐怖なのだ。

「トム・チャフの見た幻」では、一度下った天罰を繰り返す愚かさと、再び放り込まれる地獄の様子を。

「ドラムガニョールの白い猫」では代々伝わる死の予兆と、その呪いを。

「教会墓地の櫟(いちい)」では、頑なに櫟の移動を拒む寺男と、司祭との諍いが生んだ恐怖の顛末を。

どの物語も人間の業というか、「あぁ、やらなければよかった」と「もう少し考えが及べば」とか、そういうものばかり。

 

そういう意味では、いちばん最後の載っていた「贖罪物の奇妙な事件」(リサ・タルト)という物語がいちばん「業」というものを感じるかもしれない。

内容は、職を探していたレーンが助手として雇われたジェスパーソンとともに、奇妙な殺人事件を解くといういわゆる「探偵もの」なのだが、その殺人事件が人智を超えたものなのだ。

気色悪いもの(殺人鬼の持ち物や殺人事件の遺留品)を集める依頼人の婚約者の少女の後見人が関わっているようで……?

事件そのものは科学的には証明しがたい、そう、まさに「怪奇」と呼ぶに相応しい物語なのだけれど、すべては殺人事件の遺留品や殺人鬼のものなどを集めることによる「業」の集合によるものではないかと思わせる。

そんなものばかり集めた人間の末路は知れたものなのだ。

 

現在「幻想と怪奇」は傑作選も含め、7冊発行している。

まだまだ私はこの世界に浸れるということに、完全に安心しきっている。

 

 

はるう