迷い込んだ先にあるのがこの真相!?【あやかしの裏通り】(ポール・アルテ)
ロンドンのどこかにあり、奇妙な光景を目撃したあとに忽然と消えてしまうという「あやかしの裏通り」。
そこで奇妙な体験をしたという人物が、名探偵であり美術評論家のオーウェン・バーンズのもとへと駆け込んできた。
彼・ラルフはオーウェンの大学時代の友人で、今は外交官をしており、たまたま仕事でロンドンに滞在しているところ「あやかしの裏通り」に入ってしまったという。
彼の依頼でその裏通りについて調査を始めるが、やがてそれは殺人事件へと発展していき……!?
ポール・アルテ、新シリーズ開幕!
フランス人で、フランスでは有名な小説家とのことらしいが、なんとこの本の舞台はイギリス、ロンドン。
まず「フランスやないんかーい!」と突っ込みたくなる(ほかの著書はフランスが舞台かもしれないけれど)。
ときは、1901年のイギリス・ロンドン。
1901年のイギリスはヴィクトリア時代なので、そう、つまりシャーロック・ホームズが活躍していた時代と同じ。
鉄道も移動手段として登場しているけれど、市民はまだ辻馬車などが交通機関の主だった時代ですね。
雰囲気はまさに「霧のロンドン」という感じで、好きな人にはたまらない情景が広がっている。
御多分に漏れず、私もヴィクトリア時代が大好きです。
その時代に生きるアマチュア探偵で美術評論家のオーウェン・バーンズがこの本の探偵役。
ワトソン役は友人で語り手のアキレス・ストック。
彼らが語らっていると、オーウェンの大学時代の友人でアメリカ人外交官のラルフ・ティアニーが駆け込んでくる。
なんでも逃亡中の極悪人に間違えられた挙句、おかしな裏通りへと迷い込んだというのだ。
ということから、この物語は動き出すのである。
トリックとしての裏通りは至極簡単な仕掛け(分かってしまえばだけど)。
図もあるし、オーウェンの説明と照らし合わせて読めば、そんな難しいことはない。
犯人が分かったときのカタルシスもすごく爽快で、ポール・アルテすごい作家だ!と(上から目線ながら)感心してしまう。
ここまで犯人が手の込んだ仕掛けを施し、計画した理由が切実であり、心が苦しくなる動機なのである。
しかし、その切実な犯人の「思い」さえ裏切ってしまう本当の真相はある意味「胸クソ」ものかもしれない。
裏テーマはきっと「親子」だ。
物語の運びといい、探偵役といい、ワトソン役といい、シャーロック・ホームズを思わせる。
そう、これ、シャーロック・ホームズそっくりだ!と思った瞬間が、探偵役オーウェンの図々しさにあるのだ。
本の中の探偵なんて人の過去を掘り返してなんぼの商売だと思うけれど、まさにオーウェンもシャーロック・ホームズの如く人の過去をネチネチ、ネチネチと掘り返して、家に押し掛けるし、部屋を見せろと言ってくるし。
この時代の探偵を書くとこうも無神経で、図々しくて、心臓に毛が生えている描写になってしまうのか!?
故に、シャーロック・ホームズがお好きなあなたにこの本はぴったりである(つまり私か)。
探偵役の図々しさと、ワトソン役のいつも通りのちょっと損な役回り。
この絶妙さが好きだから、このシリーズを追いかけようと思う。
#読了 奇妙な体験した後に消えてしまう裏通りの本格ミステリ。犯人、トリックが明かされるカタルシスは半端ない。だがしかし、なぜこの時代の探偵はこうも図々しく神経が太く推理を話してくれないのか(褒めてる)。#読書好きな人と繋がりたい #読書好きと繋がりたい #本好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/zQhrK7DPdN
— はるう@ブックレビュアー (@haine0905) 2021年6月17日
はるう