読書狂時代

ブックレビュアー・はるうがお送りする書評、読書コラム、本に関するアレコレ。

過去と現在を繋ぐのはやっぱり痴情のもつれ【金時計】(ポール・アルテ)

 

1911年。

雪に閉ざされた森の中で見つかった女性実業家の遺体。

彼女の周りには発見者と自身の足跡しかなく……。

果たして彼女は他殺なのか?奇妙な自殺なのか?

オーウェン・バーンズの推理は?

そして、1991年。

スランプ気味の劇作家アンドレは、幼いころに見た強烈の印象を残す映画を探すことに執念を燃やしていた。

妻セリアの協力のもと映画の正体を巡る、アンドレ精神分析家と天文学者の関係。

入り乱れる過去と現在の事件の行方は?

 

 

一応、オーウェン・バーンズシリーズとなっているが、こちらはオーウェンだけではなく、劇作家のアンドレと妻の視点も一緒に入ってくる。

「一緒に」と言ってしまったけれど、オーウェンと同じ時代の人間ではなく、なんとオーウェンの生きていた時代から80年後の時代に生きる劇作家とその妻の物語が入ってくるのだ。

 

オーウェンが挑む事件は、いわゆる「雪の中の足跡」の事件。

発見者と被害者自身の足跡しかなく、もちろん犯人の足跡はなし。

殺害に方法は撲殺だったので、転んだ拍子にそばの落ちていた石で頭を打った事故なのか?それともおかしな自殺だったのか?

しかし、他殺だったらどうやって被害者を雪原の中で殺害し、戻って行ったのか?

この謎にオーウェンが挑む。

 

一方、劇作家のアンドレは作品が書けずにスランプに悩んでいたのだが、その原因がどうも幼いころに見た強烈な印象を残す映画の正体を探ればいいのではないか?と思い、妻のセリアに相談する。

するとセリアが近所のクリスティーヌから精神分析家と天文学者を紹介されたと言われ、アンドレは2人の家に通うようになる。

何やらアンドレとセリアは共通の目的があるようで、その謎も並行して解かれていく。

 

オーウェンの方は純粋な本格ミステリで、劇作家アンドレの方は「狂気の復讐劇」の様相である。

 

だから、オーウェンの方の「雪中の足跡もの」は、なんというか、お飾り感がある。

というのも、劇作家アンドレのパートがだんだんと狂気度を増していき、オーウェンの事件がかすんでいく。

「幼いころに見た印象的な映画が何かを知りたい」という欲求が、何か別の目的へと動いていくのがだんだんと読者に分かってくる。

しかし、その目的そのものが何かはおぼろげな輪郭しか分からない。

結局アンドレはその映画を見つけることが目的なのか?

セリアはただ夫の「映画を探したい」という欲求に応えてあげているだけのか?

静かに足元に忍び寄ってくる「本当の目的」を読者が知ったときには、物語はすでに手遅れの域までいっているのだ。

 

さて、オーウェンの方はというと、こちらはなんというか「痴情のもつれと金」という感じである。

トリックは簡単そうに見えて実は割と複雑……というか、犯人は考えに考え抜いた末の結果こうぜざる負えなかったのだろうなという(雪の中という状況をうまく使っているのである)。

 

私自身の完全な主観になってしまうのだけれど、犯人判明後の結果が好きではない方の幕切れだった……。

これ完全に「痴情のもつれの果ての殺し」じゃん!(女性の方はもっと賢明だと思ったのに……)。

それを殺人事件にまで発展させた犯人にある意味脱帽……。

 

 

はるう