読書狂時代

ブックレビュアー・はるうがお送りする書評、読書コラム、本に関するアレコレ。

「死ぬ」ということが「必要」である【生物はなぜ死ぬのか】(小林武彦)

 

 遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」とは?

死生観が一変する、現代人のための生物学入門。

すべの生き物は「死ぬために」生まれてくる。

 

 

この本は、倫理的なことや哲学的などを抜きにして、科学的な方面から「人間は死ぬ」ということにアプローチしている。

つまり、お坊さんが説くように「徳を積めば」とか「諸行無常だから人は死ぬ」とかではなく、「なぜ人間を含む生物には死というものが訪れるのか」ということをとうとうと生物の仕組みや進化の過程を交えて説明してくれるのだ。

 

私は高校生の時に2年間「生物」の授業があったので、細胞の仕組みだとか、ミトコンドリアだとかはかなり懐かしく感じた。

たぶん、私と同じように生物の授業を受けていた人には、学生時代をうっすら呼び起こす内容ではないだろうか。

 

帯の惹句に「死生観が一変する」とあるけれど、正直、これは帯が悪い。

人によるかもしれないけれど、この本を読んで死ぬのが怖くなくなるだとか、死を受け入れられるようになるだとか、そんなことはたぶんないと思う。

だって、死んで戻って来た人はいない。

体験したらそれで終わりだ。

だから、「死」というものの先を説明してくれる人がいないというのに、生きている人間が「死」を説いても、正直説得力ないと思いません?

 

この本を読む人は、第1章から第4章までを第5章で語る「そもそもなぜ生物は死ぬのか」という部分の壮大な前振りだと思って読んだ方がいい。

第5章は科学的なアプローチを抜きにして、「生物が死を迎える必要性」について語ってくてる。

なので、第5章はちょっと頭を柔らかくして読めるのだ。

 

確かに「死」というものは、自分が死ぬということも、近しい人が死ぬということも、ペットが死ぬことも受け入れることはできない。

ただ、自分の考え方にこの本の内容があると、ちょっとは「死」というものへの思いを変え、恐怖を軽減できる、かもしれない。

 

はるう