読書狂時代

ブックレビュアー・はるうがお送りする書評、読書コラム、本に関するアレコレ。

あなたはどの王家がお好き?〈名画で読み解くシリーズまとめ〉

〈名画で読み解くシリーズ〉とは「怖い絵シリーズ」でおなじみの中野京子さんが、王家にまつわる名画とともその王家の歴史について語った本のことである。

……言うと、なんだか堅苦しい本のような気もするかもしれないけれど、まったくそんなことはない!

 

王家や貴族といえどもそこはやはり「人間」という生き物が作り出す歴史。

権力にしがみついたり、湯水のようにお金を使って国庫を空っぽにしたり、ひたすら戦争に明け暮れたり、かと思えば政治なんてお構いなしに自分の趣味に没頭したり、王妃にひたすら冷たい夫だったり、子供とは御多分に漏れず仲が悪かったり。

今の私たちとそう変わらない思考の持ち主だし、王族だってさぼりたいときだってあるさ。

 

そんなヨーロッパ王族の歴史を名画とともに紐解き、今だからこそその歴史を「あはは、ひどい!」と笑ってしまえばいいのである。

 

〈名画で読み解くシリーズ〉は全5冊。

ラインナップはこちら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一応、刊行順に並べてみたけれど、どの王家・王朝から読んでも遜色はない(できることなら刊行順で読むことをお勧めするけれど、私はハプスブルク家以降は完全にバラバラに読んでしまったものの特に問題はなかった)。

 

簡単に1冊ずつ紹介していくので、あなたの好みの王家を探してみよう!

 

 

 ハプスブルク家

こちらはスペイン・ハプスブルク家とオーストラリア・ハプスブルク家に分かれていてちとややこしいかもしれないけれど、そんなことが気にならなくなるのが、血族結婚を繰り返していたことだ。

とにかく「血を守る」ということに徹したがために滅んでしまった、スキャンダラスな王家。

芸能人のゴシップとか好きですか?

だとしたら、こちらの王族がおすすめ。

叔父が姪と結婚し、その姪は叔父の妹とその兄が結婚してと考え出すと頭が痛くなるほどの血の混み入りよう。

 

 

 ブルボン王朝。

どこぞの国?って?

ブルボン王朝はフランスの名門貴族。

太陽王ルイ14世と言えば思い出してもらえるだろうか。

マリー・アントワネットの旦那さんもここの王朝の人。

こちらはとにかく優雅、優美、可憐、美麗な王朝。

宝石、レース、リボン、かわいいドレス、ボンネットなどが好きな方は、こちらの王朝がおすすめ。

優雅に可憐に、華々しく革命で散った王朝でもあるので、ドラマチックが好きな人もブルボン王朝が好きだと思う。

 

 

 ロマノフ王朝

こちらはロシアの王朝である。

名探偵コナン「世紀末の魔術師」で怪盗キッドが狙っていたお宝は、この王朝の宝物だった。

ロシアは今も秘密めいたところがあるけれど(プーチン大統領は100年前から姿が変わっていないという都市伝説の動画をYouTubeで見た。そんなこたぁないと思うがそっくりすぎて怖かった)、秘密警察KGBもロシアのものなので、この王朝も秘密めいている。

何がって、王族の暗殺関係やその周辺貴族の暗殺関係などが。

基本的なことは他の王族と変わらないのだが(政略結婚とか、戦争とか)、なんだろう、とにかく不気味なのだ。

というわけで、秘密をたくさん抱えているそこのあなたにこの王朝はおすすめ。

人に言えないこと胸に秘めて読みましょう!

 

 

 プロイセン王家。

またどこぞの国?とお思いだろうか?

プロイセンとはドイツのことである。

ドイツ帝国として統一されるまで紆余曲折や、戦争に明け暮れていた日々や、こちらの王家はなんというか、王家の歴史というよりも国の形成の行方を楽しむ感じである。

よって、「THE☆世界史」を読みたい方におすすめ。

ドイツ人の質実剛健さ、真面目さ、ストイックさなどの根源が分かる気がする。

あと、なぜ今のドイツが移民に寛容なのかも分かる1冊でもある。

 

 

 イギリス王家。

このシリーズの中で唯一生き残っている王族である。

イギリス王家は今も「ロイヤルファミリー」として国民から人気が高い。

なので、リアルな王族が読みたい人におすすめである。

あとこの王族はとにかく女性が強いので、強い女性が読みたい人にもおすすめ(今もエリザベス女王が君臨しているしね)。

そして、ダイアナ元妃や現王妃カミラさんの意外なご先祖様も知れて、イギリス王族の深い血筋を知ることもできる。

 

さて、簡単にすべての王族について紹介したけれど、好みの王朝・王家はあっただろうか?

 

ちなみに私がいちばん読んでいて「ひぇーこりゃおもしろい!」と思ったのは、断然は「ハプスブルク家」の歴史である。

芸能レポーターも真っ青の一族の血塗られた(血が濃すぎる)歴史の嵐!

これって相当ワイドショーを賑わすのでは?とニヤニヤしてしまう。

アイドルが好きでも、芸能人のスキャンダルに一切興味がない私。

しかし、このハプスブルク家のスキャンダラスな歴史をワイドショーでやってくれたら食いつくけれど?

 

さぁ、あなたの好みの王族はいったいどれだろう?

選んでみよう!

 

はるう

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず全部読むことが目標です【書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト】(書評七福神)

 

 「翻訳ミステリー大賞シンジケート」を母体とする書評七福神が、10年間のベスト翻訳ミステリーを紹介する。

紹介作品数はなんと520作品!

好みの翻訳ミステリーがきっと見つかる1冊である。

 

 

「書評七福神」のメンバーは以下の通り。

・川出正樹

北上次郎

・酒井貞造

・霜月蒼

杉江松恋

千街晶之

吉野仁

この中での個人の書評などを読んだことがあるのは3人。

川上次郎さん、霜月蒼さん、杉江松恋さんである。

書評を「面白い」という観点から読むのはちょっとおかしいかもしれないけれど、私は書評を読むが大好きなので読ませていただいた書評は全部「面白い!」と思って読んでいる。

 

そもそも「書評」とは、

刊行された本を読者に紹介する目的で論評や感想などを記す文芸評論の形式のこと

なので、基本的には個人の主観が入るし、本だって好みだってあるし、私が面白いと思う本をいくら書評のプロである書評七福神でも面白いと思わないかもしれないし、逆に書評のプロが「これ絶対いい!」と思う本でも私には合わないかもしれない。

 

だがしかし!

「書評七福神」は書評のプロである(しつこい)。

つまり私よりもはるかにたくさんの本を読み、はるかにたくさんの書評を書いておられるわけであって、その本に対する評価は信頼してもいいと思うのだ。

 

なので、この本でおすすめされている計520作品はすべて面白いと言っても過言ではない。

なにより、プロの文章は短くてもその本の魅力は十分に伝わってくるし、ツボをきちんと突いたものになっているので、気になった本は片っ端からメモを取りながら読むがおすすめ。

なんなら、掲載の520作品をすべて読んでいきたいとまで思わせる文章力が、書評のプロの方たちにはある(そこが私の書評とちがうところ……)。

 

最期のまとめで、杉江松恋さんが、

われわれは「翻訳ミステリー春の時代」を生きている

と言っている。

私自身も国内の本ばかり読んでいた時期があったけれど、今はどちらかというと翻訳ものの比重が大きい。

実は翻訳ものを読むのは少しコツがいる。

でもいちばんは「たくさん読んで慣れる」こと。

 

「翻訳ミステリー春の時代」を生きているということは、豊富な選択肢が目の前にあるということである。

だからこそ、選びに選んで自分好みの翻訳ミステリーを読んでいけばいいのだ。

 

迷ったら、ぜひこちらの本を参考に!

 

 

はるう

 

 

 

 

今なおも続いていて、そしてこれからも【名画で読み解く イギリス王家12の物語】(中野京子)

 

女傑が生まれ、王朝が変わるごとに名前を変え、そしていまだに大国として王族が存在し続けるのは、イギリスだけである。

興味のつきない歴史を繰り返すそのイギリスの物語とは……?

名画で読み解くシリーズイギリス王家編!

 

 

さてもさても、ヨーロッパの王族なので血族結婚と政略結婚を繰り返している。

つまり家系図が本当にややこしい。

王」という存在を戴いてない国(「天皇」が王に代わるかもしれないけれど)の日本人からすると、王が死去するたびに政治のやり方が変わったり、法律が変わったり、はては宗教の自由までなくなるというのはやっぱり理解しがたい。

ともすれば、同じキリストという神を崇めているはずなのに、派閥が分かれる。

イギリスの場合は、カトリックプロテスタント

このちがいが本当に難しい。

というか、無主教な私には理解できないに近い。

「信じる神様は一緒なんでしょ……?」と言ってしまったら、この二派に怒られてしまうかもしれないけれど、多神教な日本で、なおかつ現代はわりと無宗教な人が多いときていると、この宗教を理解にはのはきちんと調べて、学ぶ姿勢が必要かもしれない。

この二派のおかげで国は分断するし、反乱は起きるし、宗教ってある意味恐ろしい存在である……。

 

この本の表紙は「レディ・ジェーン・グレイの処刑」(上記のアマゾンの画像参照。画像は絵の一部)という絵なのだが、彼女は政争に翻弄されてわずか16歳4か月で処刑されてしまう。

自らの信仰を捨てることを拒否し、実父の起こした反乱が彼女の処刑の決定打になってしまったらしい。

女性はことに歴史に翻弄されがちだが、彼女の処刑決定の書類にサインをしたのは女王メアリだった。

女性が同じような立場(ジェーンは女王という立場に9日ながらいた)が同じ立場だった女性を処刑する。

歴史的にみれば仕方のないこと。

それはこの本を読んでいれば分かる。

分かるのだけれど、あまりにもむごい運命だと虚無感に襲われる。

女王メアリは最初こそジェーンの処刑にはためらったらしいのだが、最終的には書類にサインをしてしまった。

あまりにも短い人生。

あまりにも苛烈な政争に巻き込まれてしまい、命を落としたジェーン。

ぜひ、検索してこの絵の全体像を見てほしい(それか、この本を買って解説付きで読んでみてほしい)。

儚く散っていく16歳の乙女の最期を見届けてほしい。

 

そんなセンチメンタルさせるイギリス王家の歴史だけれど、この「名画で読み解くシリーズ」で今も残っている王家はイギリス王家である。

いや、単純にすごい。

ハプスブルク家は血族結婚の果てに滅び、ブルボン王朝は革命に散り、ロマノフ王朝も革命で滅んだ。

何がこのイギリス王家をこんなにも強くしたのか?

それは「強くしたたかな女王」なのだなと、この本を読めばよくよく分かる。

男性の王がなんというか、ことごとく頼りないし、野蛮だし、放蕩気味。

そして、お妃に厳しい(まさに、男尊女卑!)。

それを女王が仕切れば(失敗は多少あったとしても)、上手くいくことが断然に多い。

だから今もエリザベス女王が統治(政治はやっていないけれど)をしていけるのだな。

 

余談だけれど、最近フランス大統領マクロンさんが支援者と握手しているときに、男性に平手打ちをくらっていた。

私はそのニュースを笑ってみていたのだけれど、ちょうど「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」を読んでいて(お忘れかと思いますが、ブルボン王朝はフランスの名門)、ゾッとした。

だって今でこそ大統領に平手打ちして処刑されることはないけれど(平手打ちした男性は逮捕はされた)、ブルボン王朝時代に王に平手打ちしたら即刻処刑だ!

 

 

はるう

 

 

 

 

 

華やかに軽やかに破滅【名画で読み解く ブルボン王朝12の物語】(中野京子)

 

ヨーロッパの名門中の名門。

そして華やかなヴェルサイユ宮殿ロココ式など生んだ、ブルボン王朝。

彼らはいかに栄え、そして滅んでいったのか。

名画で読み解くシリーズ「ブルボン王朝編」である。

 

正直、いちばん名前がややこしかった。

太陽王を名乗る「ルイ14世」がいるのだけれど、最終的に「ルイ18世」まで登場して、著者は以前も言っていたけれど「なぜヨーロッパ王族はこんなにも名前のバリエーションが少ないのか」という問題にまず日本人はぶち当たる。

ルイとかシャルルとかアンリとか、こういうのってヨーロッパ史や世界史そのものを敬遠するいちばんの要因になっていると思うのだ(と、歴史好きの私は思う。だって、歴史が好きでもややこしいものは、ややこしい!)。

 

さて、ブルボン王朝の印象は「戦争」「革命」「優美」という感じだろうか。

 

戦争ばかり仕掛けて勝つことはあったとしても、莫大な経費と兵士は失うし、国土は荒れる(いつの時代もそうだけど、ろくなことを生まないのが戦争だな)。

 

ブルボン王朝はフランスの名門家のことなので、超有名なフランス革命が起こる。

バスティーユ牢獄を民衆が襲撃した、例の革命だ。

それ以外にも七月革命があり二月革命もある。

著者の言っている通りフランスって革命が好きなの?ってぐらい、革命が起きて、その都度「この王のやり方は間違っている!」と見直しているというのに、やっぱりまた革命が起きてしまう。

いかに国の舵取りというものが難しいということか分かる(それは現代においても同じ)。

 

華やかな面だけ見るのならばやっぱりヴェルサイユ宮殿は外せないだろう。

片田舎に造ったこの宮殿に王は籠り、こぞって貴族たちは自分たちの領土を他人に任せて一緒に籠ったらしい。

衛生的にも問題があったらしくて(お風呂は年に数回しか入らないから、香水を振りまきまくる!)、その暮らしの様子を読む限り羨ましくもなんともない。

王の手に触れるだけで病気が治ると信じられていた時代に生きていなかったせいもあるが、まるで現在のコロナウイルスのせいで「巣ごもり」をする我々のような暮らしを貴族をしていたようだ。

いや、コロナの巣ごもりよりももっと破滅を生む暮らしをしていたみたいだ。

実際、王はギロチン台に送られたりと破滅していったわけだし。

 

フランスの(現在の)イメージは、チーズ、ワイン、香水、あとは……凱旋門エッフェル塔

「花のパリ」と呼ばれる首都がある国・フランスは割と血生臭い歴史があると知る。

 

しかし、地続きヨーロッパ史ってカオスだな、と島国日本人は思うのである。

 

 

はるう

 

 

 

 

酔いしれよこの世界に【幻想と怪奇1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英国奇想博覧会】

 

「幻想と怪奇」(1973~1974年)が45年の時を経て復活する!

海外幻想文学を紹介する幻想文学の専門誌の第1号のテーマは「ヴィクトリアン・ワンダーランド 英国奇想博覧会」。

英国・ヴィクトリア時代の自由な発想が生んだ奇想をお楽しみあれ!

 

 

45年前にこんなおもしろくて、発想豊かな文芸誌があったなんて!

1年間だけの発刊とはいえ、当時読んでいた人が心底うらやましい……。

しかし、復刊した今、再びそれが堪能できるのだ。

 

第1弾は「ヴィクトリアン・ワンダーランド」!

ヴィクトリア時代とはヴィクトリア女王が統治していた時代のこと。

栄華を誇ったその時代には、小説ではシャーロック・ホームズが生まれ、現実ではジャック・ザ・リッパーが殺人事件を起こしていた。

そしてこの2人のことを私たちはよく知っている。

 

文明が花開いた時代だったせいか、発想がとにかく自由!

「幻想と怪奇」なので、幻想めいていて怪奇な作品が多いのだが、それはある意味ミステリでもあり、どこかSFの匂いもする。

 

私が特に気に入ったのは「レ・ファニュの幻妖な世界」。

いや、もう、ホントに、うっとりするほどの恐怖なのだ。

「トム・チャフの見た幻」では、一度下った天罰を繰り返す愚かさと、再び放り込まれる地獄の様子を。

「ドラムガニョールの白い猫」では代々伝わる死の予兆と、その呪いを。

「教会墓地の櫟(いちい)」では、頑なに櫟の移動を拒む寺男と、司祭との諍いが生んだ恐怖の顛末を。

どの物語も人間の業というか、「あぁ、やらなければよかった」と「もう少し考えが及べば」とか、そういうものばかり。

 

そういう意味では、いちばん最後の載っていた「贖罪物の奇妙な事件」(リサ・タルト)という物語がいちばん「業」というものを感じるかもしれない。

内容は、職を探していたレーンが助手として雇われたジェスパーソンとともに、奇妙な殺人事件を解くといういわゆる「探偵もの」なのだが、その殺人事件が人智を超えたものなのだ。

気色悪いもの(殺人鬼の持ち物や殺人事件の遺留品)を集める依頼人の婚約者の少女の後見人が関わっているようで……?

事件そのものは科学的には証明しがたい、そう、まさに「怪奇」と呼ぶに相応しい物語なのだけれど、すべては殺人事件の遺留品や殺人鬼のものなどを集めることによる「業」の集合によるものではないかと思わせる。

そんなものばかり集めた人間の末路は知れたものなのだ。

 

現在「幻想と怪奇」は傑作選も含め、7冊発行している。

まだまだ私はこの世界に浸れるということに、完全に安心しきっている。

 

 

はるう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

活字で読むバイオハザード!【死人街道】(ジョー・R・ランズデール)

 

メーサー牧師がぶっ放す銃は悪は退治する。

彼の行動は神のご加護か?

それとも、主からの罰か?

血湧き肉踊る西部劇ホラー!

 

 

最近、バイオハザードの新しいゲームが発売されましたね。

YouTubeでゲーム実況を見るのが大好きな私ですが、やっぱりリアルなグロ描写のあるホラーゲームはダメでした(ホラーゲーム自体は大丈夫なんですけど)。

 

だけれど、そんなグロ耐性が映像でない私が活字ならどんなグロでも大丈夫なので、活字で読むバイオハザードを読んでみた!

 

正確に言えば、メーサー牧師が退治するのはゾンビだけではない。

狼王や、得体の知れない魔界から呼び出された怪物、妖精コボルト

なんのためらいもなく、拳銃を打つ、打つ、ぶっ放す!

ガンファイトのシーンは手に汗握り、激熱である。

日本で持つことが許されていない拳銃を、あんなに豪快にぶっ放すなんて!

なんて爽快な小説だろう!

ゲームのバイオハザードや、映画のバイオハザードがお好きな方。

活字で同じ体験をしてみないか!?

 

己の信仰に疑問を持ちながらも、ひたすら街から街へと旅を続けるメーサー牧師。

彼が神を心から信じていない様子も見受けられるのに、なぜ、神からの試練をそこまでして受け続けるのか?

そう、彼はとある罪を犯してしまったのだ。

その罪はもちろん本文で明かされるのだが(そして、彼は罪を悔いているけれど、悪いとはあまり思ってないように見受けられる)、彼を苛む罪の深さに対して課される試練の重いことよ。

 

しかし、彼は進む。進んでいく。

たくさんの屍を乗り越えて、知り合った人たちの屍を乗り越えて。

 

ホラーが大丈夫なら万人のおすすめできるし、連作短編集(すべてメーサー牧師が主人公)だけれど、長編のように一気読み必須!

ただし、なかなかにグロテスクな表現が多いのでご注意を。

あと、女性(私もだけど)はすこーしお下品な表現もあるので、ご了承ください。

でもそんなことは、メーサー牧師の銃がぶっ飛ばしてくれますけど!?

 

 

はるう

あっけない幕切れの王朝【名画で読み解く ロマノフ家12の物語】(中野京子)

 

 絶対君主制、女帝、苛烈な拷問や処罰、処刑、そして、戦争。

300年もの間続いたロマノフ王朝の歴史と、そのあっけない幕切れを名画とともに読み解く人気シリーズ!

 

 

どうやらシリーズをバラバラに読んでしまいっているようで、書評も順番がバラバラで申し訳ないです。

しかし、どこから読んでもそこまで遜色ないのがこのシリーズのいいところ。

 

今回はロシアのロマノフ王朝について。

私のロマノフ王朝の印象と言えば、やはり名探偵コナン「世紀末の魔術師」である。

知らない方に簡単にあらすじを話すと、怪盗キッドが次に狙うお宝がロマノフ王朝の秘宝「インペリアルイースターエッグ」で、そこから殺人事件なども絡み、最後にはニコライ皇帝などの歴史も絡んでくる、というもの。

もう名探偵コナンのアニメも映画も漫画も追っていないのだけれど、この映画とこれの一つ前の「14番目の標的」が大好きで死ぬほど見返している。

 

おっと、脱線してしまった。

つまり、私はこの映画でニコライ皇帝一家が全員処刑されたことは知っていた。

その説明が皇帝を肯定するようなものだったので(ダジャレか)、本当は処刑などされずにそのままただ王朝が滅びるだけでよかったのでは?と思っていた。

怪僧ラスプーチンにしても「皇帝一家に取り入った奇人」とだけしか認識していなかった。

 

しかし、歴史はきちんと学ばないといけいないと痛感した。

確かに「処刑」という選択は過激なものだったかもしれないけれど、結局はその政治手腕が振るわず、それを改善せず、家族旅行に逃げてばかりいた後年のニコライ2世は皇帝として、政治家として無能だったのかもしれない。

代々「皇帝」という立場の人物が政治をしていた国だったがために、皇帝は国というものをある意味では私物化していた。

朕は国家なり」なんて言葉が生まれるのもなんだか頷ける(こちらの言葉はフランスの王ルイ14世が言ったもの)。

 

毎回ハプスブルク家と比べて申し訳ないけれど、こちらもスキャンダラスではない。

いや、政略結婚などはあったけれど、恋愛結婚の人もちゃんといたし、ニコライ2世は家庭の人でもあった(と言うと、ひたすら血族結婚をしていたハプスブルク家が本当に恐ろしい)。

王族であれど、妻を愛し、自らの子供を愛するのは普通のことだと思うので(現代人の感覚からするとね)、処刑はされてしまったけれどある意味では普通の夫であり、父であったのだろうな、と想像がつく。

 

そして相変わらず、日本人としては宗教問題はなかなかセンシティブな問題で理解しにくいけれど、国を分断したり、人々を分断したり、ヨーロッパ史において多大な影響を及ぼすことはもう分かっている(日本でもキリシタンの迫害はあったしね)。

ロシアでも同じように苛烈な宗教弾圧はあった。

しかし、それも歴史の1ページだと捉えることができるほど、ヨーロッパ史は宗教による問題が必ず歴史に絡んでくる。

私はそれを他人行儀に「興味深い」と言ってしまえるほど、無宗教の日本人に色に染まってしまっているのだ。

 

 

はるう